2026.07.02
分煙対策・受動喫煙対策
会社の分煙は義務?~改正健康増進法と喫煙室の設置基準をわかりやすく解説~
「分煙は会社の義務なのか」「喫煙室を設けていれば法律上の問題はないのか」——そうした疑問を持つ総務担当者の方は多いのではないでしょうか。
2020年4月に改正健康増進法が全面施行されたことで、職場における喫煙・受動喫煙をめぐるルールは大きく変わりました。単なる努力義務だったものが罰則付きの義務へと移行し、対応が不十分な企業には行政指導や過料が科せられるケースも出てきています。
本記事では、会社が負う受動喫煙対策の義務を関連する法令ごとに整理したうえで、喫煙室の設置基準・違反した場合のリスク・対応手順まで、喫煙所メーカーの視点から実務に即して解説します。
会社に分煙の義務はある?関連法令の全体像を整理する
「分煙」そのものを義務付けた法律があるわけではありません。法令が会社に求めているのは「受動喫煙を防止するための措置を講じること」であり、その手段として分煙(喫煙専用室の設置など)が活用される、という構造になっています。
受動喫煙防止に関わる法令は主に4つあり、それぞれ義務の性質が異なります。
| 法令 | 義務の種類 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 改正健康増進法(2020年4月全面施行) | 罰則付き義務 | 施設の管理権原者 |
| 労働安全衛生法(2015年改正) | 努力義務 | 事業者 |
| 労働契約法(安全配慮義務) | 民事責任 | 使用者 |
| 職業安定法施行規則 | 明示義務 | 求人事業者 |
「努力義務だから何もしなくてよい」と考えるのは危険です。後述するとおり、安全配慮義務を怠った場合には損害賠償請求を受けるリスクがあり、実質的には義務に近い水準で対応を求められているからです。
参考:なくそう!望まない受動喫煙。(厚生労働省)
参考:屋内は原則禁煙!受動喫煙防止のルールを守りましょう(政府広報オンライン)
改正健康増進法でオフィスに何が求められるか
施設は「第一種」と「第二種」に分類される
改正健康増進法では、施設の性質に応じて2種類に分けて規制の内容が定められています。
第一種施設(学校・病院・行政機関の庁舎・児童福祉施設など)は敷地内が全面禁煙となり、喫煙室の設置自体が認められません。屋外でも受動喫煙防止に必要な措置がとられた場所(特定屋外喫煙場所)に限り喫煙スペースを設けることができます。
一方、一般的なオフィスや事業所は第二種施設に分類されます。
オフィス(第二種施設)は「原則屋内禁煙」
第二種施設には「原則屋内禁煙」が義務付けられています。ただし、法令が定める技術的基準を満たした喫煙専用室を設置すれば、その室内に限り喫煙が認められます。
ここで押さえておきたいのは「原則」という言葉の意味です。喫煙室を設けることは可能ですが、基準を満たさない状態で喫煙を許容していると法令違反となります。「昔から喫煙室があるから大丈夫」と考えている場合、その喫煙室が現行の技術基準を満たしているかどうかを改めて確認する必要があります。
参考:職場における受動喫煙防止対策について(厚生労働省)
喫煙専用室の3つの技術基準
法令(改正健康増進法施行規則)では、喫煙専用室を設置する際に満たすべき技術的基準として、以下の3点が定められています。
1.気流の確保:喫煙室の出入口において、室外から室内に向かって0.2m/秒以上の気流があること
2.区画:たばこの煙が室内から室外に流出しないよう、壁・天井などによって区画されていること
3.屋外排気:たばこの煙を屋外または建物外部の場所に排気していること
この3点はすべてを同時に満たす必要があります。たとえば区画が十分でも排気が室内循環だけでは基準を満たせず、また気流が0.2m/秒を下回っていれば壁で囲っていても不十分とみなされます。
標識の掲示と未成年の立入禁止
喫煙専用室を設置している場合は、施設の主な出入口と喫煙室の出入口に、喫煙室の種類を示す標識を掲示することが義務付けられています。また、喫煙室への20歳未満の立入は禁止されており、これは清掃のためであっても例外はありません。
違反した場合の罰則
| 違反の種類 | 罰則 |
|---|---|
| 喫煙禁止場所での喫煙(個人) | 30万円以下の過料 |
| 喫煙室の技術基準違反・標識未掲示 | 50万円以下の過料 |
ただし、いきなり過料が科せられるわけではありません。管轄の保健所などから指導・勧告・命令が段階的になされ、それでも改善されない場合に過料の対象となります。ただし社名が公表されるリスクもあるため、指導を受ける前に自主的に対応することが重要です。
分煙対策を怠った場合のリスク
行政からの罰則とは別に、企業が民事上のリスクを負う点にも注意が必要です。
安全配慮義務違反による損害賠償
労働契約法第5条は、会社が労働者に対して安全で健康に働ける環境を提供する「安全配慮義務」を負うと定めています。受動喫煙対策を怠り、従業員が健康被害を受けた場合、従業員から損害賠償請求を起こされる可能性があります。
特に「被害を訴えているにもかかわらず会社が対応しなかった」という状況は、義務違反として認められやすくなります。日頃から従業員の申し出に丁寧に応じ、適切な対策を記録として残しておくことが重要です。
採用・ブランドへの影響
職業安定法施行規則の改正(2020年4月施行)により、会社は求人募集の際に受動喫煙防止対策の状況を明示することが義務付けられています。これにより、受動喫煙対策の実態が可視化され、採用競争力や企業イメージにも影響するようになっています。
既存の喫煙室が基準を満たしているか確認する方法
改正健康増進法施行前から喫煙室を設けている場合、現行の技術基準を満たしていない可能性があります。以下の3点を自己チェックしてみましょう。
①気流の確認(風速測定)
喫煙室の出入口を開けた状態で、室内に向かって0.2m/秒以上の気流があるかを風速計で測定します。風速計がない場合は線香の煙などで確認することもできますが、正確な判断は測定機器を用いた数値確認が必要です。
②区画の確認
喫煙室が壁・天井・ガラスなどによって適切に区画されているかを確認します。ガラリ(換気スリット)がなく給気経路が確保されていない場合、煙が十分に排気されない可能性があります。
③屋外排気の確認
煙が建物の外部に排出されているか確認します。室内に循環させているだけでは基準を満たしません。排気口の先が建物外に出ているかを確認してください。
基準を満たすための分煙対策の選択肢
既存の喫煙室が基準を満たしていない場合、主に以下の選択肢があります。
①換気設備の増強
排気量が不足している場合、換気扇の増設や大型化で対応します。入口の面積と必要風速から逆算した排気風量を確保することが必要です(例:開口部が0.8m×2mの場合、約1,152m³/h以上の排気風量が必要)。気流が0.2m/秒に満たない場合でも、のれんやエアカーテンの設置で基準を満たせることもあります。
②パーティションによる区画整備
喫煙室が壁で完全に囲われていない場合は、アルミパーティションなどで開口部を仕切ります。給気口(ガラリやアンダーカット)も合わせて確保しないと、排気がうまく機能しない点に注意が必要です。
③脱煙機能付き喫煙ブースの設置
既存の建築物で屋外排気の工事が難しい場合に活用できるのが、脱煙機能付き喫煙ブースです。経過措置として認められた設備で、以下の基準をすべて満たす必要があります。
- 総揮発性有機化合物(TVOC)の除去率が95%以上
- 排気される空気の浮遊粉じん量が0.015mg/m³以下
- 開口部の全測定点で0.2m/秒以上の気流があること
※脱煙機能付き喫煙ブースであっても気流(0.2m/秒以上)の確保は必須です。導入時および定期的な性能確認試験が必要です。
④屋外喫煙所への変更
建物外に喫煙スペースを設ける方法です。受動喫煙を防止するための必要な措置がとられていることが条件となります。
都道府県の上乗せ条例にも注意が必要
改正健康増進法は全国一律のルールですが、都道府県や政令市によっては、それよりも厳しい内容の条例を制定している場合があります。
代表的な例として、東京都では2020年4月から都独自の受動喫煙防止条例が施行されており、飲食店については国法よりも厳しい基準が適用されています。また大阪府では、「大阪府受動喫煙防止条例」が2025年4月1日に全面施行されました。大阪府内の飲食店の場合、これまで国法の経過措置で喫煙を選択できた客席面積30平方メートル超100平方メートル以下の店舗も、原則屋内禁煙の対象となっています。
自社が所在する都道府県に上乗せ条例があるかどうかを確認のうえ、条例の要件に合わせた対応をとることが重要です。
参考:大阪府の受動喫煙防止対策(大阪府)
まとめ:総務担当者がまず取り組むべきこと
会社における受動喫煙対策は「努力義務だから任意でよい」という状況ではなくなっています。改正健康増進法による罰則付き義務、安全配慮義務に基づく民事リスク、採用への影響の3つが重なり合い、対応が不十分な場合のダメージは決して小さくありません。
まず取り組むべきステップは次の3つです。
1.自社施設の区分を確認する:第一種か第二種かを確認し、第一種施設には喫煙室自体を設置できないことを把握する
2.既存の喫煙室の基準適合を確認する:風速(0.2m/秒以上)・区画・屋外排気の3点を実測・目視で確認する
3.基準を満たしていなければ速やかに対応する:換気増強・区画改修・喫煙ブースの導入・屋外喫煙所への移行から自社の状況に合った方法を選ぶ
喫煙室の設置や改修に関するご相談は、設備の専門家に早めにご連絡ください。気流測定や設計の段階からサポートを受けることで、法令に適合した対応をスムーズに進めることができます。
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